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グループ発表C班〜地域格差〜

小泉尚子

 

Cグループは2006~2008年の貧困社会について調べました。非正規雇用・若者・ホームレス・地域格差について取り上げた中で、私は地域格差を担当しました。

 

 

『地域間の所得格差はやはり広がっていた』

(尾村洋介「エコノミスト」2007.3.27)

 

◆輸出主導の回復と公共事業削減で格差拡大

 内閣府が出した2004年度の県民経済計算で02〜04年度の3年連続で県民所得の地域格差が拡大していたことが明らかになった。非正規社員の増加や成果主義賃金体系への移行などに伴う所得格差の拡大だけでなく、財政再建に向けて公共投資削減に舵を切った小泉純一郎政権下で、通説通り地域間格差もやはり拡大していたことが、データで裏付けられた格好だ。

一人当たりの県民所得は、雇用者報酬(労働者や会社員の所得)や企業の利益、利子収入などの財産所得の合計を都道府県民の人口で割った額である。個人の所得だけでなく、企業の利益も含む各都道府県全体の所得水準を示す。各都道府県の生活の豊かさを大まかに把握できる指標と考えてよい。

04年度の都道府県民一人当たりの県民所得は、全国平均では前年度比0.3%増の298万8000円と、2年連続で前年度を上回った。しかし、県民所得のばらつきを示す「変動係数」は15.57%と3年連続で上昇した。(下図参照)

内閣府経済社会研究所国民経済計算部(22年度)

変動係数はバブル最盛期の1989年度の17.04%をピークに減少し、94〜01年度は横ばいからわずかに減少傾向にあったが、02年2月以降の景気回復期から上昇に転じている。全体的に傾向としては、大都市圏や製造業の集積地域の所得水準が上昇する一方で、公共事業への依存度が高い地方では所得が低下している。輸出産業主導で、地域の景況感にバラつきがある回復だったことのほか、小泉政権下の経済財政諮問会議で01年6月に決定された最初の中期経済方針「骨太の方針」で、財政再建に向けて新規国債発行額を30兆円以下に抑える方針が盛り込まれ、翌年度予算から公共投資が削減され続けたことが影響しているとみられる。

 

◆格差固定化の危険認めた06年「経済財政白書」

内閣は小泉政権時代、「格差問題」について、総務省の全国消費調査などに基づく家計所得格差の指標である「ジニ係数」について、長期的に穏やかに拡大しているが、その要因は所得格差が大きい高齢世帯や所得の少ない核家族、単身世帯が増えているためであり、ジニ係数の格差拡大は「見せかけ上の現象」と強調する。国民の間に実感として広がっていた所得格差の拡大は統計上は確認できない、あるいは小泉政権の構造改革との因果関係は証明できない、との分析を出示し、国会での「格差」論争で小泉首相を支えた。

ところが現実には、雇用保障や賃金などの待遇面で正社員と大きな格差がある派遣社員やパートなどの非正規雇用社員が企業の人件費抑制や労働規制の緩和などの影響から急増し、雇用全体の3分の1を占めるまでになった。小泉政権で最後の経済白書となった06年白書では、「雇用の多様化」で若年層に非正規社員が増加し、格差固定の危険があることを認めるに至っている。

また、同白書では、03年度の1人当たりの県民所得のデータから地域間のばらつきを指摘したが、その要因に「各地域が特化している産業による労働生産性の違い」にあると述べるにとどまっており、公共投資削減の影響については分析していない。ただ、格差是正のために公共事業削減の方針を緩めるべきだとの主張が通らない。とすれば、地域には自助努力を求める一方、国は低所得層へのセーフティネットをさらに整備する必要があるだろう。

米英では、税と社会保障を一体化し、税とは逆に「給付」を行う「勤労所得税額控除」が導入されている。勤労が条件のため、生活保護より労働意欲を引き出す効果が高いとされている。

内閣府のシンクタンクの経済社会総合研究所の分析によると、日本は、欧米に比べて所得再配分機能が弱く、特に低所得層でその恩恵が薄い。さらに政府は財政負担軽減のため、生活保護など福祉予算カットを進めている。政府税制調査会(首相の諮問機関、香西泰会長)は、格差問題対応を含めた税制の根本改革を今秋から議論するが、米英の経験を踏まえ、格差是正と貧困解消に向けた本格的な議論が望まれる。

 

各都道府県労働者の平均年収
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2006年より

1位 東京  601万円   32位 北海道 410万円

 2位 神奈川 543万円   45位 秋田 361万円

 3位 大阪  529万円   46位 沖縄 343万円

 4位 愛知  513万円   47位 青森 335万円

  

平均年収は大企業の本社が集中している東京が断トツでトップの601万円。一方沖縄青森等の平均年収は350万円を切っており東京の平均年収と比べると250万円以上平均年収が低い事が分かる。

 

『地方分権「竹中改革」で住民の暮らしはどう変わるか』

(週刊東洋経済 2006.7.1)

 

 地方分権改革をめぐり、地方と国との対立が激化している。震源地は竹中平蔵・総務大臣の私的研究会「地方分権21世紀ビジョン懇談会」だ。

「ここまで包括的に(地方分権について)議論した例は日本の政策史上ないのではないか。大変貴重な貢献だ」

5月下旬、ビジョン懇が報告書案を公表した後の記者会見で、竹中総務相は胸を張った。懇談会は今年1月から11回にわたって精力的に議論を重ね、地方団体からのヒアリングも経て報告書案にまとめ上げた。

税源移譲や補助金改革など従来から指摘されてきた問題に加え、新型交付税や再生型破錠法制の導入、地方分権一括法―。大きく九つの柱からなる提言を見ると、確かにこれまでにない、大胆な提言がずらりと並んでいる。

報告書の狙いはずばり、「地方に真の自由をもってもらい、自由の裏返しとして責任を持ち、経済的、財政的に自立してもらうこと」(竹中総務相)。自由と責任、自立の三つをキーワードに、地方自治体の歳入・歳出の仕組み、義務と権限を根本的に再構成しようというものだ。

地方自治体と国との関係はこれまで、国が地方を支配し、地方も国に依存する状態だった。国が地方の歳出や歳入に細かく口出しする一方、地方が財政破たんした場合の責任の所在がはっきりしない、もたれあいの構図だった。「地方団体は総務省の護送船団システム、(民法の)成年後見制の下にあるようなもの」(鳥取県の片山善博知事)という表現もあながち大げさではなかった。

たとえば地方分権。自治体が行政サービスを行うのに必要な「基準財政需要」と税収など「基準財政収入」の額をそれぞれ算出し、不足する差額分を、国税5税の一定割合を財政とする交付税で補うのが基本的な仕組みだ。

 しかし、「自治体の歳出の大部分は、国が基準付けの形で決めている」(ビジョン懇の大田弘子座長)。2005年度の基準財政需要額や設置基準を定めているのは9割にも上るという。そして国はこれに基づき、財政保証をしている。これが、まさに国が地方を支配する力の源泉になってきた。いわば地方分権とは名ばかりだったと言えるのだ。

地方債も、昨年度までは国の許可なく発行できなかったが、今年4月からは国などの同意がなくても議会へ報告すれば、地方債を発行できるようになった。それ以外は総務大臣の同意が必要になる。しかし、国に逆らってまで資金調達をして行う事業があるとも思えず、「実際に発行されることはほぼあり得ない」(地方関係者)と見られている。ビジョン懇の報告書はこうした国と地方の関係を見直し、交付税改革や地方債の完全自由化など「全部一体で一つの仕組み」(太田座長)を作って、地方の自由を拡大しようと提言したのが最大の特徴だ。

税金や交付税、地方債など「入」(収入源)への国の関与を外す一方、新分権一括法で地方に対する義務付けをなくし、「出」(使い道)も自治体の裁量に任せる。特に、交付税の簡素化・透明化と地方債の完全自由化を具体的に打ち出し、これまでありえないとされてきた、自治体の破綻の可能性に初めて踏み込んだ。

ビジョン懇の目指す新しい交付税制は、人口と面積とを基本として算定する新交付税制の導入と不交付団体の増加だ。新型交付税は07年度予算から導入、今後3年間で5兆円規模を目指す。さまざまな補正をかけ、複雑になりすぎた算定の仕組みを簡素で透明なものに変えていく。

さらに、不交付団体の数は今後3年程度で人口20万人以上の自治体の半分を目標にしている。現在、1800余りある都道府県と市町村のうち、交付税を受け取っていない自治体の数は139にすぎない(05年度)。地方税収が減る一方、基準財政需要額が膨らんでいるのが一因とみられているが、ビジョン懇では名古屋市など、財政力がある自治体も交付団体になっている点を問題視している。

仮にビジョン懇の報告書通りに改革が進むと、日常生活や自治体運営はどうかわるのか。まず想定されるのは、新地方分権一括法により、国による全国一律の行政サービスの基準付けが出来なくなるため、自治体によって受益(サービス)レベルに差が出てくることだ。財源不足を理由に、福祉など行政サービスの水準を切り下げる自治体が出てくる可能性がある。

財政のある自治体と、そうでない自治体間の格差も激しくなりそうだ。財政力のない自治体は市場からの資金調達コストが上昇し、最終的に増税という形で跳ね返ってくる可能性がある。その結果、サービスがよいよく、税負担はより軽い自治体を求めて、住民の大移動が始まるかもしれない。

 

 

 

グループ発表C班(1回目)

〜地域格差〜

学生番号 17080019

3年 小泉尚子

 

Cグループの2回目の発表では湯浅誠さんの主張を柱に、2006〜2008年の格差社会について調査しました。私は週刊東洋経済の記事を取り上げました。

 

正社員は既得権益か?――湯浅誠氏・城繁幸氏が、雇用、セーフティネットをめぐり徹底討論(1) - 09/11/17

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湯浅 新政権がとるべき有効な雇用政策としてまず必要なのはセーフティネットへの対応、年末をどう乗り切るかが一つのヤマです。生活が成り立たず「もやい」に相談に来る人も昨年の3倍、都内の炊き出しもどこも例年の倍以上の列です。その次に雇用創出。介護、農業、林業や新規産業分野への転換も含めて必要です。労働者派遣法や有期雇用法制の規制強化にも、来年の通常国会後半には具体的に着手してほしい。
城 セーフティネットの必要性は同感です。特に生活保護と雇用保険の間をつなぎ職業訓練機能を伴う「第2のセーフティネット」(→用語解説1)の役割は大きい。ただ規制に関しては湯浅さんと逆で、企業に向けて派遣法はじめ労働規制強化は、少なくとも景気がよくなるまで行わないとアナウンスすることが必要だと思います。先進国の潮流としては、企業に雇用責任を負わせるのではなくて、社会でそれをやりましょうという、“フレキシキュリティ”政策への評価が高く、私も支持しています。具体的には金銭解決の導入など、正社員の解雇規制(→用語解説2)の緩和を認め、同時に職業訓練などセーフティネットを充実させる。
<労働市場を変えるため何を先にすべきか>
湯浅 規制強化すると企業が逃げるという話ですよね。その理屈を認めてしまうと、世界中の法人税がゼロになるまで「逃走競争」は続くことになる。中国からバングラデシュ、次はアフリカ大陸へ。日本企業はフィリピンやマレーシアで労働問題を起こしてますが、日本ほど労働運動の弱い国は滅多にありませんから、種々のコストを考えると必ずしも安上がりになるとは思えない。
城 法人税をゼロにしようという説は実際結構あります。従来高かった大陸欧州諸国も、オランダが口火を切って今やチキンレース状態で引き下げが続いています。アジアで日本は飛び抜けて高い。台湾や韓国は半導体や電機関連の法人税を国策的に下げています。企業が社会に提供するものは雇用です。逆に雇用だけでいいと思います。

湯浅 雇用の質はどうなりますか。私は質の劣化は量の増大よりも問題だと思っています。とにかく雇ってくれるだけでありがたいとなると、社会から企業に何ら文句を言えないことになる。それは派遣切りに遭ったような人を増やすだけでは。
城 小泉政権では非正規雇用の規制緩和は行いましたが、正社員を含めた労働市場全体の改革は行わなかった。これでは正社員と非正社員の間で競争原理が働かない。すべてのツケは全部非正規に押し付けている身分制。ここが問題の本質です。大手の正社員で年収2000万円もらっている人を1人リストラするだけで、やる気のある20代の非正社員3〜4人を雇うことができる。
湯浅 順番が逆ではないですか。この間、非正規の人は契約の中途解除など違法な形で切られている。違法をただすのが先であり、正社員の解雇規制を緩めたらなぜ違法行為がなくなるのかわかりません。
城 厳しい法規制を厳密に守れと強制すると、経営が成り立たない企業が出てきますよ。
湯浅 個人が窃盗をしたら、いくらその人が立派な人でも許されない。なのになぜ企業だと、潰れたら元も子もないので多少の違法には目をつぶろうとなるのですか。
城 私はトータルでどれだけ利益が残るか考えるべきと思っています。問題は高度経済成長後それに代わる成長モデルを描けていない点にあり、それは人が移れないからに尽きますよ。
湯浅 横断的な労働市場をつくることは同感です。それを妨げるものとして、中途採用に消極的な企業や企業別組合、人材育成能力のない派遣業者などの問題があることも理解できます。ただ移るには環境を整えないと無理。第2のセーフティネットもうまくいってません。

<大企業正社員が邪魔をしているのか>
城 大企業は職業訓練を受けたとしても、非正社員を正社員として迎えるつもりはないですよ。正社員の解雇規制を緩和しろというと財界べったりと批判されますが逆です。トヨタ自動車もキヤノンも終身雇用でいくと言っている。要するにウチの正社員は終身雇用でいきます、ただ非正社員は雇用の調整弁で使いますよと彼らは言っているわけです。
湯浅 派遣法の規制強化の問題(→用語解説3)も、二言目には人件費増に耐えられず潰れる、海外に逃げると言われますが、企業はなぜ期間工なりアルバイトなりの直接雇用でなく間接雇用の派遣の活用を望むのですか。かえってコスト高となりそうですが。
城 二つあります。一つは人材募集、管理の負担を委託できる。もう一つは直接雇用することで労使関係が生じてしまう。そのリスクをヘッジするために派遣会社を間に入れているのです。だから、もし解雇の金銭解決が導入されて、たとえば2〜3カ月分の給与を上乗せするなら何年契約社員をしてても解雇できるとなれば、大企業は派遣会社なんて使いません。
湯浅 城さんの考えでは諸悪の根源は解雇規制ということになるわけだ。私もフレキシキュリティ政策は評価しますが、それは失業しても生きていけるという状態がなければ無理ですよね。失業しても生きていける、たとえば職業訓練に対する企業のコミットメントなど外部労働市場をつくることに企業も参加してもらわないと。そう問題を立てないと実際に物事は動かなくありませんか。
城 職業訓練を受けた人でも採らない一因は年功序列賃金にあります。そこを変えないと何兆円職業訓練につぎ込んでも実りはないですよ。
湯浅 大企業の正社員がどれだけのパイを奪っているんでしょうか。そんなに敵は大きいのかと疑問に感じてしまう。経営者報酬や株主配当のほうが問題になりませんか。
城 経営者の報酬は大体大手の平均で5000万円くらいですよ。その会社の正社員の5倍未満です。上場していると赤字転落ともなれば大幅に下げないといけないし、その意味で彼らは責任を取ってますよ。株主配当で言うと配当性向は欧米の主要企業と比較しても4割程度と高くはない。だからそれよりむしろ、日本の大企業全体を覆う正社員サロン、中小企業や非正規労働者を使うことで維持しているヒエラルキーのほうが大きな問題だと思っています。

湯浅 確かに、正社員クラブの弊害で非正規労働者や女性が不利益を被っている。この岩盤は壊していくべきです。ただ問題の立て方として、正社員の解雇規制がスケープゴート的に使われている気がします。
<プロスポーツに例えると>
城 よくプロ野球の話をするのですが、選手は成績が上がらなければ賃下げや解雇もされます。ですがプロ野球に非正規雇用の選手はいませんよね。ある球団の選手全員が給与を切り下げられワーキングプア球団になったりしていませんよね。それは球団はペナントレースに勝つことを求めて経営するからで、企業についても同じですよ。
湯浅 その考えは危険だと思います。純粋な競争原理が貫徹できるプロスポーツの世界は、社会のごく一部なんですよ。その原理ですべて成り立つとなれば、それこそ何の規制もいらないし、完全な自由放任がベストでしょうが、人生はプロスポーツではない。誰でも最低限の生活は確保されないと困ります。セーフティネットもいらないし、人がバタバタ死んでも仕方がないということになりませんか。
城 私は仕事も全部プロスポーツと同じだと思っています。日本はたまたま運よく高度成長期を遂げられたから、皆気づかずにやってこれただけで、一皮めくれば実態はシビアなプロスポーツと同じ競争原理で動いていると思います。少なくとも中国人やインド人はそう考えて挑んできている。その中で国が最低限のセーフティネットは張らねばならないとは思いますよ。
湯浅 だけど国家の中に企業もあるわけですよ。企業は治外法権ではありえないんですよ。
城 ただ企業は国籍をいくらでも変えられます。企業だけに全部任せるのは間違いだと思います。
湯浅 変えられるでしょうが、輸出型の大企業も日本人を雇用して日本の消費者を相手にして国際企業に成長したわけですよね。そのくせ税金の安いところに国籍を移すとしたら、その姿勢やモラルを社会は許容すべきではありません。
城 でもそれは「べき論」ですよね。中国は従ってくれますかね。

湯浅 べき論が支配すれば国際的にも状況は変わる。環境だってそうじゃないですか。国は人の生活を守るためにあるのですから、生存を確保できる最低限の規制は必要です。企業もそこはあきらめてほしい。人の生活を守る、それは日本企業である以上しょうがないと。
城 それでは国力が衰退する。じわりじわりと正社員も非正社員も、そしてGDPも下がり続けることに危惧を覚えます。今のひずみは規制緩和が中途半端だったから生じているんです。徹底した労働ビッグバンを行うべきだったんです。
湯浅 横断的労働市場の形成具合に比べれば、正社員の解雇規制の緩和とか年功型賃金の解体のほうが、現実はるかに進んでいると思います。十分なセーフティネットも横断的労働市場の形成もない現段階では企業から離れたら生活できなくなるんだから、既得権と言われようと、しがみつくに決まってますよ。
城 いちばん大きいのが入口の問題であり、解雇できるようにならないと企業は人を採用しません。労働契約法なりで解雇はできると明文化すれば見直しは進むはずです。
湯浅 雇用の問題だけで完結する話でもありません。日本では子どもの教育費や家賃、ローン返済など住宅費の負担が急激な山型カーブを描いている事情を加味しないと。ヨーロッパが職務給でやれるのは教育費や住宅負担が少ないからです。
城 住宅ローンに関しては今まで会社名を担保に貸していたのを信用情報の一本化、要するにクレジットスコアを作って過去の年収と返済状況で金利を設定する方式で個人に貸そうという動きが進んでおり、期待してます。教育費ですが今の状況では私は大学にはあまり優先順位を感じません。ある程度優秀で熱意がある人しか大学に行く必要はなく、学びたい人は自分で奨学金を取ればいいと思います。

<労働組合は味方になっているのか>
湯浅 城さんの話は「ウルトラC」があるような感じがするんですよ。ここさえやればうまくいくんだ、という。でも私はウルトラCはないと思う。いくつものステップを踏まないと、いきなり欧州型の職務給になどならないし、横断的労働市場も形成されない。
城 私はそれでもウルトラCに賭けてみたい。焦っているのには理由があってそれは財政です。すでに維持不可能なレベルで、私はあと10年もたないと思っています。その意味でも一発逆転を図りたい。ハイパーインフレを起こしたら、結局資産を持たない経済的弱者が路頭に迷うことになる。そうした閉塞感を打破するのは改革しかないと思います。
湯浅 構造改革路線では無理だと思いますよ。この閉塞感の震源地は低所得貧困世帯のためです。進学できない、病院に行けない、就職できない、その不安が社会全体に蔓延しているのが今です。その立て直しなくしては、それこそ国際競争にも勝てないと思います。横断的労働市場の形成のために労働組合が持つ意味というのは本来大きい。派遣村を一緒にやったような労組の社会運動が、連合傘下の大産別にも影響を与える動きが理想と感じます。
城 企業別労組が解体して職種別労組ができるのは、労働市場の流動化よりハードルはかなり高く、ちょっと期待できない。今後の働き方の理想は中核的なホワイトカラーは3〜4年ごとの仕事を請け負う個人事業主になっていく。そのほかに従来型の時給いくらの仕事をする人たちが連なるという形に、いや応なく進んでいくと思います。
湯浅 働きがいのある人間らしい労働、ディーセントワークを求めていくしかないと思います。期間の定めのない、直接雇用を雇用の大原則として置き、その例外には一定の縛りがある。かつ失業してもそこで生活が破綻しない、生活が成り立つ社会システムが必要だと思います。

 

製造業派遣は是か非か――労使キーマンが激論バトル《特集・雇用壊滅》(1) - 09/02/20 | 12:26

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■労働側の主張
「ルールを守らない企業に派遣を許さないのは当然だ」
 ――高木剛・日本労働組合総連合会会長
 派遣という労働形態は、そもそも一時的、短期的な雇用調整の仕組みだ。あるいは、たとえば通訳のような仕事そのものに専門性があり、スポット的な働き方をする業種を対象とすべきもの。それが、1999年に一般業務にまで対象が拡大し、さらに2003年の改正で製造業にまで広がってしまった。派遣上限期間も1年から3年に延長された。
 その結果、派遣労働の本来のあり方から離れ、単に期間の定めのある有期雇用という面だけが強調されることになった。さらに、賃金コストが安いからという理由で、雇用調整の対象となる枠を超える形で、派遣労働者が業務に広く組み込まれるようになった。
 ところが、直接雇用関係にない派遣先企業にとって、派遣労働者を使うのは、資材の調達と同じ発想だ。打ち切るときにも「明日から、この部品は持ってこなくていいよ」という感覚で処理してしまう。派遣先企業には、生身の人間を扱うという意味での責任感がない。規制緩和が進む中で、景気が悪化したら起こるべくして起こったのが、現在の派遣切りだ。
 企業が法律や契約などのルールをきちんと守れないなら、派遣という労働形態を許すな、ということになるのは当たり前だ。連合の基本方針は、99年の法改正以前の状態に戻すということ。要するに、一般業務への派遣は原則ノーだ。
 一般業務の中には、製造業派遣も含まれる。連合内部にも、いろいろな意見はあるが、乱暴な派遣切りまで肯定しているわけではないだろう。基本方針の背景、その持つ意味は理解されていると思う。
 ただし、形態は派遣でも、仕事内容に専門性があり、訓練も受け、常用的に使われている常用型派遣もある。それと登録型派遣とは区別して考えるべきだ。また、仮に製造業派遣が禁止になるとしても、現在働いている人たちの雇用を守るための経過措置は必要だろう。
 ただ、景気が悪化し、製造業などで設備の稼働率が下がってくれば、雇用調整もやむをえない面がある。さらに「2009年問題」もあり、今年3月で契約が終了となる派遣労働者が大量に出てくる。したがって、雇用調整の対象になる労働者の生活を守るためのセーフティネットが必要になるが、まだまだ不十分なのが現状だ。
 重要な課題の一つが職業訓練だ。介護や環境関連など、今後さらに社会的に労働者が必要になる部門がある。そこに就労するための職業訓練を労働者に受けてもらう。連合では、職業訓練の期間中の生活保障を訴えている。
 ワークシェアリングの議論も出ている。過去にも労使で協議したことがあるが、うまくいかない理由が二つあった。一つは労働時間の問題。時間外労働を含めて労働時間の上限をどのように規定するかが、議論の前提となる。もう一つは同一価値労働同一賃金。同じ仕事をしているのに、片や賃金が100、片や50というのでは、仕事を分け合うということにはならないだろう。今後ワークシェアリングの議論をするにしても、その定義や中身をきちんと整理する必要がある。

 

企業側の主張
「派遣そのものが悪ではない雇用創出のプラス面もある」
 ――鈴木正一郎・日本経団連・雇用委員会委員長
 資本主義経済では景気変動は避けられない。不況になったときに雇用問題をどうするか。企業、労働者、そして政府の三者が知恵を絞って、その影響を最小化する必要がある。
 現在、不況のシワ寄せを最も受けているのが非正規労働者、中でも派遣労働者であることは確かだ。だからといって、派遣労働そのものが悪だというのは一方的すぎる。派遣だから安易に切る、ということはない。企業もギリギリの選択をしている。
 日本は戦後長らく完全雇用でやってきた。だが、今や潜在的な経済成長率は低下し、正規雇用を抱えるだけでは経営が立ち行かなくなった。そうした中で、派遣という多様な働き方が、雇用を創出してきたプラス面もある。
 現在、集中的に人員削減が起こっている製造業派遣にしても、それが解禁されて何が社会的に起こったのか、成果と問題点を冷静に分析する必要がある。そのためには雇用している企業の考え方、働いている人の実情をきちんと調べなければならない。1999年の自由化以前に戻れという声もあるが、同じことだ。拙速に議論すべきではない。
 本来、需給調整のプロとして、ある会社がダメなら次の会社へと、派遣先を見つけるのが派遣元の仕事だ。それが100年に一度ともいわれる不況で、今回の景気悪化はスピードが速く、しかも谷が深い。好調な業種がほとんどないため、次の派遣先を見つけられないことが問題を大きくしている。
 企業は法律や契約を守って経営しなければならない。モラルは当然必要だ。だが、企業のモラルだけに頼ってセーフティネットを作ろうというのは無理がある。経営状況によっては、法律や契約にのっとって派遣契約を中途解約する場合もある。それまでダメだというのでは、経営は成り立たない。派遣労働者の失業率が高まるのは、制度上、ある意味で致し方のない面がある。
 したがって、政府にはセーフティネットの構築をぜひお願いしたい。こうした経済情勢においても労働力が不足している部門がある。そこに再就職できるように職業訓練を行うことが必要だ。あるいは、環境関連など、新たな雇用創出政策を早急に打ち出してほしい。
 ワークシェアリングについては、いまやるのであれば緊急雇用対策型だろう。雇用を確保して失業者を極力なくすため、1人当たりの労働時間を減らそうという考え方だ。その分、賃金は低下することになる。だが、雇用や仕事のあり方は各社各様。個々の企業の労使がどのような選択をするかに任せるしかない。

 

やはり泣くのは非正社員、吹き荒れる「派遣切り」の嵐(1) - 08/11/27 | 06:00

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 「10月に入って急激に仕事が減った。年末の見通しはまるで立たない」。日雇い派遣で働く藤野雅巳さん(39)はため息をつく。藤野さんは日雇い派遣最大手のグッドウィルに登録して働いてきたが、同社は今年7月末に廃業。その後は同業のフルキャストで主に仕事を得ていたが、同社も2度目の事業停止命令を受け、来年9月をメドに日雇い派遣から撤退すると発表した。
 大手2社の立て続けの不祥事発覚と景気低迷を受け、日雇い派遣市場は大幅に縮小している。2007年夏には1日当たり約5万人が派遣されていたが、今夏は約1万人に激減。限られたパイの奪い合いとなり、労働条件は悪化の一途だ。
 「日給7000円程度で、アルコール臭がきつく毎日何人も倒れるような現場や、最低15人は必要な棚卸しの仕事を素人4人でこなすように命じられたりする」と千葉県の20代の女性スタッフは語る。
 セーフティネットが事実上存在しないのも条件悪化の一因だ。昨年9月に派遣労働者にも日雇い雇用保険が適用されるようになったが、使い勝手の悪さと周知不足でこれまでの利用者はわずか4人。明日の仕事がなければたちまち生活破綻となりかねない、そんな日雇い派遣の危うさは何ら解消されていない。
 グッドウィル、フルキャスト以外の日雇い派遣会社は、実はさらに問題が多い。「就業条件明示書を出さないどころか、どこで働くのかすら実際行ってみるまでわからない業者もある」と神奈川の女性スタッフはいう。「未登録者の派遣や事前面接、高額なペナルティなど違法が横行している。指摘すると『ウチはグッドウィルみたいな大手ではないから』などと開き直られた」(同)。
念願の直接雇用でも容赦のない雇い止め
 日雇い派遣の労働環境悪化の背景には、製造業の大減産がある。「日雇い派遣の大口顧客は倉庫や物流。減産で物流の仕事が減るだけでなく、製造業の仕事を失った派遣スタッフが日雇い派遣市場に流入している。ダブルパンチで需給バランスが大きく崩れている」と、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は解説する。
 実際、製造業での「派遣・期間工切り」は一気に進んでいる。トヨタ自動車は業績悪化を理由に、年初には約9000人いた期間工を来年3月までに3000人程度まで減らす方針だ。「実はトヨタ本体より子会社、孫会社のほうが先行しており、仕事も住まいも失った派遣スタッフからの労働相談が激増している」と、愛知県労働組合連合会の榑松(くれまつ)佐一事務局長は地元の実情を語る。
 「あまりに突然で理不尽な話に、怒りを通り越してあきれている」。トヨタ自動車の孫会社、自動車部品製造のジェコーで期間工として働く安田美貴さん(仮名、29)は10月23日、同社取締役から勤怠が悪いことを理由に雇い止めを告げられた。契約終了のわずか3日前の事だった。
 安田さんは01年5月から請負労働者として同社の夜勤専属で働き続けてきた。偽装請負を告発し、昨年9月から同社直接雇用の期間工となった。ところが長年の昼夜逆転生活がたたって、今年初から体調を崩すようになった。ようやく4月から昼勤への転換が認められ、緩慢ながら快方へ向かい始めた矢先の出来事だった。「夜勤の結果、体を壊し、働けなくなったらお払い箱……。いくら何でもひどすぎる」。
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「泣き寝入りせず職場復帰できるよう頑張りたい」。キヤノンで期間工として働いてきた宮田裕司さん(29)はそう力を込める。宮田さんはキヤノン非正規労働者組合の一員として偽装請負を告発。昨年10月に同社の期間工となった。今年2月、宮田さんは職場長からパワハラ行為を受ける。職場長は厳重注意に処されたが、8月末、その職場長を含む幹部の判断で宮田さんの雇い止めが行われた。地位保全を求める仮処分申請の場で、同社は宮田さんが技能レベルに達しなかったため行った、通常の雇い止めだと答弁している。
 非正社員が次々と職を奪われる中、製造派遣の期間制限が目の前に迫っている。06年、偽装請負の社会問題化を受け、多くのメーカーは請負契約を派遣契約へと切り替えた。そのため09年3月以降、最長3年の期間制限が順次到来する。
非正社員は4割弱に急増 問題は有期雇用の是非
 この製造派遣の「2009年問題」に関して、厚生労働省は期間満了後、指揮命令が必要な場合は直接雇用に、不要な場合は請負に切り替えるべき、との通達を示した。ところがメーカー側の関心は驚くほど薄い。「この通達で、これまでどおり人材サービスを活用するには請負体制の構築が不可欠となった。ただ大半のメーカーは様子見を続けており、これから半年で請負に切り替えるのはまず無理」と製造派遣幹部は語る。
 その結果、メーカーはいや応なく直接雇用を進めることになるが、現状は「ほとんど100%が期間工採用」(製造派遣幹部)であるのが実態だ。一時は期間工としての直接雇用は正社員化への一里塚とも期待されたが、実際は真っ先にクビを切られる存在に変わりはない。結局、直接・間接問わず、3カ月程度の契約期間しか雇用が保証されない有期雇用労働をどう考えるかに、今後の議論は集約されてくる。
 11月4日、政府は違法行為が頻発した日雇い派遣の原則禁止を柱とした、労働者派遣法改正案を国会に提出した。だが派遣契約期間しか雇用保証のない有期雇用である「登録型派遣」の規制は見送った。
 厚労省の調査では、全労働者に占める有期雇用の非正社員の割合は37・8%へと急増。景気減速となれば、有無を言わせず切り捨てられる労働者がすでに4割弱に達しているという現実。それは道理にかなっているのか。今はそれを直視する格好の機会ともいえる。
メーカー側の意識薄く大混乱も

 

<参照>

・内閣府経済社会研究所国民経済計算部22年度

・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2006年

・エコノミスト2007.3.27

・週刊東洋経済 2006.7.1、2009.11.17、2009.02.20、08.11.27